市場やスーパーの店頭には待ちにまった栗が並び始めた。
胡桃も葡萄も全てイタリア産、秋のいろ一色それを見るだけで胸騒ぎする。
お仕事で行った南イタリアのプーリア州、道路脇にはサボテンの実がザックザクと実をつけていた。
北も南も秋色。
この季節はいつも「衝動買い」に走ってしまいがち、ファッションのそれではなくて「食」の衝動買いなのだ。
日本の秋も美味しいものが出回るのと同じようにイタリア全土で季節のものが沢山出回るのだ。
日本に住むS子さんご夫妻がまたイタリアにやって来るという、
しかも今回は私も訪れたことの無いトリエステ / Triesteに行きませんか?と言うお誘い。
全くの誤解だったのだけれど「淋しい」という意味のイタリア語の単語とトリエステという地名が似ていたので、
実は余りググっと心に響かなかった土地であるがゆえ、ずうっと行かず仕舞いだった。
旅のきっかけというのは人それぞれで又それも面白い。
S子さんのご主人がトラム好きという。
ふっと数年前の夏に岡山で乗った路面電車を思い出した。
吊り革のところに風鈴がいくつも列を連ねてそれがとても風情があったのを今でも憶えている。
私は旅先ではいつも夫に頼り放しだったのが、今回はナビゲーターの役目を果たさなければならず、
本当に頼り無いナビだ。
ホテルでもらった地図を片手に何度も足を止めては地元の人に尋ねての繰り返し。
トラムの乗り場方向に歩いていたら道路にいた住民の男性が、
「トラムに乗るの?数ヵ月前から動いてないんだよ。」
イタリア人は大体にしてジョークが好きな上、東洋人3人をからかっているのだとばかり思い、
笑いながらも半信半疑で乗り場へと向かった。
やはり本当だった。
折角なので、同じ路線をバスで旅することにした。
オベルダン広場のタバッカイオで切符を買い求めた。
この日は平日そして午後の昼下がり。
学校帰りの学生が元気良くバスに乗って来て車内はほぼ満員。
時折見え隠れするアドリア海の水平線が旅を盛り上げてくれる。
トリエステならではの坂道の町をグイグイ上がって行くこと10分足らず、
そこには昔ながらの木製の路面電車が停まっていたのだ。
3人とも興奮冷めやらず。
床も椅子も全てが木造り。
動かない車内で3人でおしゃべりをしているとそこにトラム博士のような人が乗り込んで来て
あれこれと説明をしてくれた。
「展示車」の後ろは車庫とバールがあってそこでカフェ /caffè(エスプレッソコーヒー)を飲んでひと休み。
最大傾斜数が26%だそうで数字に弱い私でも、それを間近に見ると
その迫力に圧倒される路面を間近で見るとその凄さ、力強さに圧倒されるのだ。
この傾斜数であるがゆえ、
車両は専用のもう一台の車両によって押し出されて登って行くそうで、
これぞまさに馬鹿力だ。
次はこの「現場」を見たくなった。
トリエステと言う町は色んな国の影響を受けて独特の文化が栄えた所だ。
そのせいか、町の人は皆親切で温かい。
旅人を心良く歓迎してくれる。
今度はトラムが再開通した時に行ってみたい。
ボーラという、冬に吹く北東の激しく冷たい季節風からそれにつかまって身を守るようにと
坂道の階段沿いには手摺りが設けられているのもこの町の特色だそうだ。
トリエステは勘違いしていた言葉の意味とは全く正反対の印象の町で、
中でもヨーロッパ有数の海に面した広場が堂々としていて素晴らしい。
昼と夜の印象が光によっても全く違うものに見えてくる。
人生前進する時また旅のきっかけは各々、そこから又色々な出会いがあり、
様々な経験が待っている。
「きっかけ」を与えてくれる人々に感謝を忘れないように心がけたいものだ。