「ライスシャワー用のバスケットどうする?」
「結婚指輪を持ってくれる姪っ子ちゃんの頭に載せる花環は注文してあるよね?!」
「ねえ、さらば独身貴族よ!パーティーの時にやったみたいに
花嫁が乗る車の後ろにカラカラカラ~ンって缶カラ付けたらどう?」
おいおい、結婚式は明日だよ~!
まだやることあるんだから、それは無理!結婚式の立会人と言えど、
やることが山盛りあって、自分の結婚式の時よりもっと忙しい思いをした。
何かある毎に痛感するのが、直前になって慌てるイタリア人、
これまで何度もこういう場面に直面して来た。
とは言っても結末は何とか丸く収まるのだから
これもまた学ぶべきことだ(逆にこっちがおそわってしまう)。
郷に入れば郷に従え、私も慌てちゃあいけない。
車の後ろにつける缶カラよりももっと実行したいことがあった。
それは「セレナータ」!! 結婚式の前日、花婿が花嫁に内緒で彼女の家に押しかけて、
愛の唄を歌うサプライズでイタリア北部より南部地方で広く伝わる慣習だ。
初めてそれを見たのは数年前にカラーブリア州出身の友人の結婚式に参列した時。
それがとてもロマンチックで素敵だったので、いつかやってみたいなあと思っていた。
とは言え、私が企画の話を “さらば独身貴族よ!パーティーグループ”に持ちかけたのは
「セレナータ」を決行すべき当日の午後3時(何だ私もギリギリになってやってるではないか;;;)。
花婿側の立会人に連絡したらちょうど翌日に結婚式を迎えた花婿も一緒に居合わせ、直談判。
「何を歌ったらいい?」
「1曲でいい?」
「えっ~最低3曲歌わなきゃだめだよ。」
グループの中にはミュージシャンもいてギター持参で来てくれるので、
こちらは準備万端。彼の奥さんもイベント好きだから、色々協力してくれて助かった~。
花婿と彼側の立会人の了解も得て確認を取ったところで、グループにメッセージを発信した。
「本日セレナータを実施。21時にドコソコの○○Barに集合!」
私とマルちゃんは花嫁側のグループだから、花婿側グループには勿論、
その立会人パオロに指揮をとってもらった。
夕食を自宅で済ませ待ち合わせ場所に夫と到着したら、
既にファビオ夫妻がカッフェを飲み終わったところだった。
次々と集まって来る友人達。
肝心な花婿とその立会人は皆の予想通り、45分もと大幅に遅れてやって来た。
花嫁はドレスの着付けやお化粧で翌日朝早いので余り夜遅くなっちゃあいけないし、と
彼らが到着するまで冷や汗ものだった。
緊張をごまかすためだろう、花婿になる友人はかなりお酒が入っていた。
「じゃ、みんな~プロセッコ一杯ずつやるぅ?」
だめだめ、ここは意地でも花嫁の家に向かって出発しないと真夜中になっちゃうから、、、!
集合場所のBarから車で1分、花嫁の自宅に到着。
みな小声になる。
「オイ、ソッチジャナイゾ—。コッチコッチ!」
「コラ、モットシズカニアルケ!ジャリガアルカラ、オトヲタテルナ!!」
しまった!!!
私は不覚にも花嫁と目が合ってしまった。
物音に気がついた花嫁がたまたま窓の外に目を向けたら、そこを私が通っていたのだ。
しまった~!
先を歩いていた花婿はギターを持ったファビオと歌い始めた。
♪今晩、君のために赤い薔薇を買ったよ。君にメッセージを伝えたかったんだ~♪
花嫁が家の中で立ちすくんでいるのが見えた。
サプライズは成功したようだ。
花嫁が玄関まで近づくと我ら歌い手のボリュームが上がった。
花婿を取り囲むように皆真剣に、でも楽しそうに歌っている。
仲間の一人が気をきかせてメッセージと一緒に送ってくれたYouTubeのサイト。
夜までに少し練習しておいた。
メロディーは知っているけれど、歌詞はさびの部分しか知らない覚えていない。
花嫁が外まで出てきた。
花嫁のお父さんはゲラゲラ笑っている。
お母さんは
「ブラーヴィ!ブラーヴィ!!」
を繰返し叫んでいる。
3曲も歌って上出来だった。
ホッとしたのか、緊張していた花婿予定の彼にはいつもの笑顔が戻った。
そしてこれまた予想通り
「オーイ、乾杯するぞ~!」
帰りがけ、ビールの空瓶が美しく整然と並んでいた。
いよいよ明日は結婚式だ。
(続く…)