街を歩けばいたる所にパン屋の看板が掲げられている、
食事用のパンは勿論、おやつ用に軽食用にとプチトマトがたっぷりのったフォカッチャや
揚げたてのパンツァロッティ(パン生地を薄く丸くのばして中にトマトソースとモッツァレッラを入れて
植物油オイルで揚げたもの)なんていうプーリアの名物にもお目にかかれる。
ここはアルタムーラ/ALTAMURA、プーリア州の州都バーリにある空港から南西へ約60キロその道のり、
土の色が随分と面白い色ということに気がつく。
その昔、町の中心には共同の釜があって職人さんがパンを焼いていたのだそう。
古代ローマ時代の詩人はブリンディズィへの道のりの途中
アルタムーラで旨いパンに出くわした、等という伝説も残っているらしい。
Denominazione di Origine Protetta=DOP(保護指定原産地表示): 欧州連合が定めた、
イタリアのパン業界でいち早くこの認定を受けた “お墨付き”のパン、表面に貼ってあるマークが目印だ。
職人さんが次々と手際良くこねた生地をカットしていく。
焼き上がった時の重さは500グラムを下回ってはならないし、
表面のカリッとした部分は3ミリ以下であってはいけない。
また、パンが含む水分は33%を下回ってはいけないというように厳しい「おきて」があるのだ。
外側のパリパリした部分、この色を土地の人は原料と同じ麦色という。
イタリア人らしい表現だ。
また、物凄く大きくていびつな形をしているのが忘れられないのも特徴だ。
薪を使った焼き釜で焼くのにも美味しさの隠し味があるに違いない。
ジュゼッペお父さんがぶ厚いパンをわざわざ潰して見せた。
弾力があるのでしっかりと元に戻るのだ。
噛み応えのあるパン、ゆっくりと時間をかけて天然酵母で発酵させるので、消化がいいという。
カリッとした外側とは対照的に中はしっとりしていて正に黄金色をしている。
テレビで見た、夏一面の麦畑と全く同じ色だ。
自然がおりなす食べ物の色って本当にドキドキさせてくれる。
アルタムーラはもちろん、ここからからほど近い小麦粉の産地ムルジェ、
これらの地域の小麦を原料にするのが「おいしいアルタムーラのDOP」パンの第一条件なのだ。
ジュゼッペお父さんはこのパン作りに「秘密」は無いという、
今は皆パン作りを知っている、大事なのは原料だと強調する。
上質の硬質小麦の産地でもあるこの土地であるが故生まれたアルタムーラのパンは納得の美味しさだ。
新鮮さだけがこのパンの「売り」では無い。
数日経ってもこのパンはおいしいのだ。
その昔アルタムーラ近郊の羊飼いや農家の人は数日、また2週間も
家族と離れ家畜の世話や農作業に従事せざるを得ないこともしばしばで、
それには保存が効いて栄養価も高いこのパンはうってつけだったのだ。
「勉強家、研究熱心」であるジュゼッペお父さんは世界中のフードショー、イベントに参加したり
テレビ出演したりとアルタムーラDOPのパンの名を世界にアピールし尽力してきたまさにパン一筋の人。
10年前と変わらぬ笑顔で迎えてくれたジュゼッペお父さんの情熱はとどまる所を知らない。
パン作りの話をしている時の目はとてもキラキラしていた。