「あっ犬のウンチ踏んづけちゃった。」
「違うよ~それ銀杏の実だよ。」
そんな笑い声や喚声が聞こえてきたのは “旅するテアトル” と題し、
演じる役者さんとそれを見る観客がストーリーにそって徒歩で場所を変えながら演じ、
またそれを観賞するという正に “動く劇場” のひとコマ。
中世の衣裳を見にまとった男性が太鼓をたたきながら登場すると
黒いベレー帽、そして黒い服を身にまとった主人公が生家から出て来ました。
ナレーターの「皆さん、静かに!」という合図で始まった
プロスペーロ アルピーニ氏のエジプトの旅の始まりです。
ここはヴィチェンツァ県のマロスティカ市、ここに今では
イタリア人の生活に欠かせないものを初めてヨーロッパに持ち帰った人物がいます。
それがプロスペーロ アルピーニ氏、
11月23日はちょうど没後400年の記念すべき日でした。
医者であり大変研究熱心な植物学者であったまさに彼が、
ヨーロッパに初めてコーヒーの木を持ち帰った人物なのです。
植物の世界の有生生殖の先駆者であり、パドヴァ大学を卒業し医者になるも、
植物学への情熱は一向に冷めませんでした。
そんなある日、ヴェネツィア共和国の派遣大使として任命を受けた
ヴェネツィア人貴族ジョルジョ氏の「おかかえ」医師として指名され、
エジプトのカイロ行きの推薦を受けるのです。
金銭的にゆとりの無かったプロスペーロには
植物学を研究するのに願ってもないビッグチャンスでした。
帰国してからも何度もエジプトに足を運び更なる研究を続け、
数々の薬用植物を持ち帰っては研究に没頭しました。
その中にコーヒーの木があったのです。
パドヴァの植物園の最高責任者として任命を受け薬理学/薬物学の教べんをとりました。
その時代は今のようにコーヒーは至福の時を楽しむ嗜好品としてでは無く、
あくまでも薬用として研究されていたのです。
中々絵の方も達者だったようで、研究材料として持ち帰った植物は
細かい所までよく描写されています。
所変わって街角にある老舗の薬局屋さん前、
エジプトからわにを持ち帰り、その脂肪はとある治療にいいんだと説得している
プロスペーロと疑い深い薬屋の店主のやり取りのシーンです。
事実、この薬局の中には今でもプロスペーロがエジプトの旅から持って帰った
本物のわにのはく製が店内に飾られています。
“旅するテアトル” は時間の経過と共に観客も増えて行きました。
テアトルの幕を閉じたのはエスプレッソコーヒーの無料サービス、
町の中心のチェス広場にお店を構えるコーヒー豆屋さんのご主人の粋な計い。
中世の衣裳を身にまとい手際良く次々とエスプレッソをサーヴしていきます。
酸味が少ないまろやかな味、クリーミーな泡がぶ厚くて本当に美味しかった!
この豆の種類はその名もプロスペーロアルピーニ、いつでも誰でも買い求めることが出来ます。
初めてのエジプト旅行から帰った後、出資者となったプロスペーロには
重要な人物の所へ報告に行ったのです。
中世の衣裳をまとい演じる役者さんのすぐ側で
小っちゃな子どもがピッタリと寄り添うように見上げているそんなシーンも
またこの生きたテアトルの魅力です。
観客を魅了し、一緒に400年前にタイプスリップさせてくれた役者さんに
心から拍手を送ります。
Grazie, siete bravissimi!!